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【キャリア支援は誰のため?】「キャリア支援=成功の物語」への提言

こんにちは。
一般社団法人カリエーレ・コムサ、キャリアコンサルタント佐渡治彦です。

皆さんは、「キャリア支援」と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?
自己分析、スキルアップ、転職成功、キャリアアップ…..。
しかし、支援の現場にいると、そのような“前向きな物語”に乗れない人たちがたくさんいることに気づきます。

はじめに:キャリア支援の「限界」と「問い直し」


現代のキャリア支援の主流は、「成功」や「上昇志向」を前提とした支援モデルが大きなベースとなっています。
自己実現やキャリアアップを目指す支援は重要である一方で、そこから「漏れ落ちる人々」の存在が見過ごされがちです。

都会・大企業・男性・正社員 VS地方・中小企業・女性・非正規社員
⇒このような「複合的な不利」が日本では見過ごされやすいです。
地方在住者、非正規雇用者、女性、障害者、外国人労働者など、社会的に不利な立場にある人々にとって、従来型のキャリア支援は十分に機能していない現実があります。

日本では「格差」は、あたり前で「自然なもの」として捉えられる傾向が強いと思われます。

こうした背景のもと、世界のキャリアコンサルタントの現代の潮流は、キャリア支援の本質に立ち返り、「社会正義(social justice)」の視点から支援を行うことです。
「社会正義のキャリア支援」と呼ばれています。

キャリア支援は、エリート層だけのものではなく、様々な周辺層にも必要なのです。

今回、社会正義のキャリア支援として、キャリアコンサルタントが実践できる3つの具体的なプラクティス
――①深い意味でのカウンセリング、②エンパワメント、③アドボカシーを軸に、これからのキャリア支援のあり方を述べたいと思います。

参考【社会正義のキャリア支援:下村英雄著】

1. 🧠 深い意味でのカウンセリング:存在の承認と「声」を聴く

● 表面的な支援から「深い意味での関わり」へ

キャリア支援の出発点は、目の前のクライエントの存在を深く理解し、尊重することにあります。
特に、社会的に周縁化された人々にとって、「自分の声が聴かれること」「存在が承認されること」は、支援の第一歩です。

  • クライエントの語りを遮らず、評価せず、丁寧に聴く。
  • 「あなたの経験は、あなたにとって意味がある」と伝える。
  • キャリアの悩みを、個人の問題ではなく、社会構造の中で捉える。

例えば、非正規雇用の女性が「自分にはキャリアがない」と語るとき、それは本人の能力不足ではなく、ジェンダーや雇用制度の歪みによって選択肢が制限されてきた結果かもしれません。
こうした背景を理解し、共に言語化していくことが、カウンセリングの本質です。

2. 💪 エンパワメント:自己決定の力を育む

● 自尊感情と選択肢を取り戻す支援

社会的に不利な立場にある人々は、しばしば「選べない」「どうせ無理」「私なんか」といった無力感を抱えています。
キャリアコンサルタントの役割は、そうした人々が「自分にも選択肢がある」と実感できるよう支援することです。

  • 小さな成功体験を積み重ねることで、自尊感情を回復する。
  • 現実的・具体的なスキルや情報を提供する。
  • 制度や支援策(例:職業訓練、生活支援制度)を適切に案内する。

例えば、シングルマザーが再就職を目指す場合、保育制度や時短勤務制度の情報提供、職業訓練の紹介など、現実的な支援が不可欠です。
単なる「励まし」ではなく、実際に行動できる手段を共に探ることが、エンパワメントの実践です。

エンパワーメントとは自分でキャリアの進路決定を選択できるように、クライアントに「力」を付けてもらうことです。

3. 📣 アドボカシー:環境への働きかけ

● 個人支援を超えて、構造に挑む

キャリア支援が本当に社会正義を実現するためには、個人の支援にとどまらず、組織、環境や制度に働きかける「アドボカシー(代弁・提言・具申)」の視点が不可欠です。

  • クライエントの声を組織や社会に届ける。
  • 不合理な制度や慣習に対して改善を求める。
  • 他の支援者や団体と連携し、ネットワークを構築する。

例えば、障害者が就労先で合理的配慮を受けられない場合、本人の努力だけでなく、企業側への働きかけや制度の改善提案が必要です。
キャリアコンサルタントは、こうした「環境調整役」としての役割も担うべきです。

また、エンパワメントとアドボカシーは連続的な関係にあります。
クライエント自身が「セルフ・アドボカシー(自己主張)」できるよう支援しつつ、必要に応じて支援者が「代理アドボカシー」を行う。この柔軟な視点が求められます。

おわりに:キャリア支援の原点に立ち返る


キャリア支援とは、単なる就職支援やスキル提供ではなく、「人が人として生きることを支える営み」です。
社会的に不利な立場にある人々の声に耳を傾け、選択肢を広げ、環境に働きかける――「格差」をあたり前だと捉えずに、このような支援の考え方を広めていくことも、キャリア支援の原点であり、社会正義のキャリア支援の実践です。

キャリアコンサルタントは、単なる「相談員」ではなく、「伴走者」「代弁者」「変革者」としての役割を担う存在です。

私たちは今一度、「自分たちは何のためにこの仕事をしているのか」を問い直し、支援の本質に立ち返る必要があると思います。

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