こんにちは。
カリエーレ・コンサルタンツ、キャリアコンサルタント佐渡治彦です。
前回まで、キャリアコンサルティングの世界の潮流である「社会正義( ソーシャル ジャスティス )のキャリアコンサルティング」のパイオニア、トニー・ワッツ、アメリカの第一人者、ブルースティンについて述べましたが、そもそも、「社会正義」って、
何なんでしょう?とても崇高なイメージがしますし、「私は社会正義をモットーにしています」と言うのも、小恥ずかしいですよね。
今日は、「社会正義 ( ソーシャル ジャスティス ) 」って、そもそもどう考えるのかを述べます。
キャリアコンサルティング研究者は、次の3つの意味で「社会正義」を捉えています。
「応報的正義」「分配的正義」「承認的正義」の3つです。
少しムズカシそうですね。
この3つのワードを以下、わかりやすく解説します。
★「応報的正義」
この考え方は、がんばった人はがんばった分だけ報酬が得られ、がんばらなった人はがんばらなかった分だけ、報酬が減るという意味の正義です。
公平・公正の競争をするのが原則です。一見、弱肉強食をイメージしますし、新自由主義的、競争主義的、悪い意味での市場主義的な捉え方もできます。
しかし、この考え方は、徹底的に自由競争をして社会正義を実現するという意味です。
その上で、障害の等など不利な人には、ハンディを与えてスタートラインを平等にするという考え方です。「機会の平等」とも言われます。
生活保護や奨学金、年金などはこのロジックで展開されています。この考え方は、多くの日本人にも受け入れやすいでしょう。
★「分配的正義」
この考え方は、多くの報酬を得ている人は、少ない人に分配、分け与えるという意味の正義です。
「結果の平等」とも言われます。
この考え方では、がんばった人は損をするじゃないかとも思われます。
ただ、この考え方は、少ししかもっていない人は、必ずしもかがんばらなかったわけではないと考えます。誰でも、病気、ケガをしたり会社が倒産したりするなど不運に見舞われることはあると考えることがポイントです。
また、裕福な人が必ずしも自分の努力、がんばりのみで報酬を得たわけではない。
親が裕福だったり、運がよかったりする場合があることを考慮しています。
決して、応報的正義を前提とした因果応報が成立するわけではないと考えます。分配的正義は、裕福層から貧困層に富を与える課税などの再分配政策や万が一に備えた社会保障政策の考え方に繋がります。
★「承認的正義」
この考え方は、現在、社会正義のキャリア支援の研究者が、最も重視している考え方です。
少数派の意見を含め存在を認めて承認する考え方です。
民主主義の基本は多数決です。
その際、多数派意見は、尊重されます。
しかし、少数派は、ともすれば意見を聞き入れられず、その存在さえ認めてもらえない場合があります。少数派意見は、もはや応報的、分配的以前の問題です。
そこで、少数派が存在すていることをまず、認めことが大切であり大前提であるという考え方が、承認的正義です。
承認的正義で良く重視されるのが「ボイス(Voice)」です。
少数派の声を聴かなければならないという意味です。
このことは、少数派の存在を認め、少数派にアイデンティティを獲得させることに繋がります。「承認ー自己アイデンティティの確立ー自己表現ー自己決定」という一連のプロセスを承認的正義は重視します。
「社会正義」(Social Justice)と一言で言っても、このような考え方の違いがあります。
ただ一つ言えることは、弱者層を考慮するということは共通しています。
コロナの影響で、格差社会、社会の分断が一層、広がる懸念があります。
キャリアコンサルタントは、このような状況の中、「社会正義 ( ソーシャル ジャスティス ) 」という意識を持ってキャリアコンサルティングにあたる必要があると思います。労働政策研究・研修機構キャリア支援部門主任研究員、下村英雄氏は、
「社会正義 ( ソーシャル ジャスティス ) のキャリアコンサルティングは、何か新しいことをやろうなど特別のことではない。スタンスの問題である」と述べています。このような、日頃、意識しないような「社会正義」(Social Justice)を頭の片隅において、少しでも意識してキャリアコンサルティングに取り組むことが、これからの社会に必要となると考えます。
次回も引き続き、社会正義のキャリアコンサルティングの概要について述べたいと思います。
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