こんにちは。
一般社団法人カリエーレ・コムサ、キャリアコンサルタント佐渡治彦です。
皆さんは、「非正規社員」という働き方はどんなイメージをお持ちですか?
バブル崩壊、リーマンショックの後には、「非正規社員」というと正社員になれない人たちが、仕方なく選ぶという働き方というどちらかと言えばネガティブなイメージがほとんどではなかったでしょうか。
ところが、令和6年度版労働経済の分析(厚生労働省)から読み取れる不本意非正規雇用労働者の減少という変化が見られます。
このデータは、日本の雇用市場における大きな転換点を示していると思います。
*不本意非正規雇用とは「本当は正社員になりたいけれど、仕事がないから仕方なく非正規で働いている人」のことです。
また、この変化は、キャリアコンサルタントの役割にも新たな視点をもたらしていると思います。
以下、解説しますね。

不本意非正規雇用が減っているってどういうこと?
令和6年度版労働経済の分析(厚生労働省)によると、「不本意非正規雇用労働者」が減ってきていることが分かります。
具体的には、
- 2013年以降、男女ともに「仕方なく非正規で働いている人」の数と割合が減ってきました。
- 特に2023年には、初めてその割合が1割を下回り、過去最低の水準になりました。
これは、日本の働き方が大きく変わってきていることを意味します。
「仕方なく」から「選んで」非正規へ
不本意非正規雇用が減る一方で、自分の意思で非正規雇用を選ぶ人が増えています。
その理由としては、主に次の点が挙げられます。
- 自分の都合の良い時間に働きたいから:プライベートを優先したいというニーズが高まっています。
- 家事・育児・介護と両立しやすいから:特に女性に多い理由ですが、家庭の事情と仕事を両立させるために柔軟な働き方を選んでいます。一時的に新型コロナウイルスの影響で減少しましたが、再び増加傾向にあります。
- 通勤時間が短いから:通勤の負担を減らしたいという人も増えています。
これらの変化から、多くの人が「正規雇用でなければ」という考え方から、自分のライフスタイルや価値観に合わせて働き方を選ぶようになってきていることが分かります。
正社員になれるチャンスも増えている
非正規雇用から正社員への転換についても良い動きが見られます。
- 過去1年間で離職した15〜54歳の人々で、「非正規から正社員になった人の数」から「正社員から非正規になった人の数」を差し引いた数字は、2022年にはマイナスでしたが、2023年にはプラス5万人となり、正社員への転換がしやすくなってきていることがうかがえます。
これらのデータは、雇用形態の選択肢が広がり、個人のキャリアの可能性が多様化していることを示唆しています。

キャリアコンサルタントの「新しい役割」
不本意非正規雇用労働者の減少と、個人の意思に基づいた働き方選択の増加は、キャリアコンサルタントの役割に大きな変化を求めます。
これまでの「正社員になるための支援」だけでなく、より多様なニーズに応え、個人の主体的なキャリア形成をサポートすることが重要になります。
1.多様な働き方の「案内人」になる
キャリアコンサルタントは、クライアントが自身のライフスタイルや価値観に合った働き方を見つけるための「案内人」となります。
- 非正規雇用の「新しい価値」を伝える:非正規雇用は「仕方なく」ではなく、「選ぶ」働き方として、どのようなメリット(例:柔軟な時間、多様な経験)やデメリット(例:雇用の安定性、福利厚生)があるのかを明確に伝えます。
- 働き方の選択肢を広げる:時短勤務、リモートワーク、副業など、様々な働き方を紹介し、それぞれの働き方がクライアントのキャリアにどう繋がるかを具体的に示します。
- スキルアップの道筋を示す:どんな働き方を選んでも、市場価値を高めるためのスキルアップは重要です。オンライン学習や公的訓練など、具体的な学習機会を提案し、自律的な成長を促します。
2.個人の「本当に大切にしたいこと」を見つける手伝いをする
「仕方なく」ではなく「選んで」非正規雇用になる人が増えているからこそ、キャリアコンサルタントは、クライアントが自分自身の価値観やライフプランを深く理解できるようサポートします。
- 自己理解の深掘り:クライアントの興味、強み、得意なこと、そして「どんな生活を送りたいか」といった価値観をじっくりと対話を通じて引き出し、明確にします。
- ワークライフバランス実現への伴走:「家事・育児・介護と両立したい」というニーズには、柔軟な働き方を導入している企業の情報提供や、制度の活用方法など、具体的なアドバイスで支えます。
- 「非正規」への意識を変える:非正規雇用が必ずしもネガティブな選択肢ではなく、個人のライフスタイルを実現するための有効な手段であることを理解してもらい、クライアントの自己肯定感を高めます。
3.正社員への「スムーズな橋渡し」を続ける
正社員への転換が改善傾向にある今、キャリアコンサルタントは、その流れをさらに加速させる「橋渡し役」としての専門性を磨く必要があります。
- 企業ニーズとの「ぴったりのマッチング」:正社員を希望するクライアントに対し、企業が求めるスキルや経験を伝え、不足している部分の習得を支援します。企業側の採用基準を理解し、より適切な求人を紹介することで、ミスマッチを防ぎます。
- 採用に向けた「徹底サポート」:履歴書や職務経歴書の効果的な書き方、面接での受け答えの練習など、実践的な支援を通じて内定獲得を後押しします。
- 正社員後の「キャリアプラン」も一緒に考える:単なる正社員になるだけでなく、その後のキャリアパスや、正社員として働く上での役割や責任の変化まで見据えた長期的なキャリアプランを共に考え、クライアントが自律的にキャリアを築けるようサポートします。
4.心の健康を守る「伴走者」となる
働き方が多様化する中で、キャリアの悩みやストレスは尽きません。
キャリアコンサルタントは、クライアントの心の健康を守る「伴走者」としての役割も担います。
- ストレスへの対処法を共に考える:雇用の不安定さや新しい環境への適応に伴うストレスに対し、適切な対処法を提案します。
必要であれば、専門機関への紹介も行います。 - 「立ち直る力(レジリエンス)」を育む:キャリアの困難や挫折に直面しても、前向きに進むための力を養えるよう、成功体験の振り返りや自己肯定感の向上を促します。
- 情報提供とネットワークの提供:孤立しがちな非正規雇用労働者に対し、役立つ情報提供や、同じような境遇の人々と交流できる場を提供し、安心感を与えます。
5.常に学び続ける「情報収集家」である
労働市場は常に変化しています。キャリアコンサルタントは、常に最新の情報を学び、クライアントに適切なアドバイスができるよう「情報収集家」であり続ける必要があります。
- 最新の雇用トレンドを把握する:労働経済白書や業界レポートなど、信頼できる情報源から常に最新の雇用動向を学び、知識を更新します。
- 幅広い業界・職種の知識を深める:多様なクライアントのニーズに応えるため、様々な業界や職種に関する知識を積極的に習得します。
- 労働法規や制度の理解:労働に関する法律や、国が提供する支援制度などを正確に理解し、クライアントに正しい情報を提供できるようにします。
まとめ
令和6年度版労働経済の分析(厚生労働省)が示す不本意非正規雇用労働者の減少は、「働き方の多様化」という時代の変化を明確に示しています。
キャリアコンサルタントは、この変化を前向きに捉え、画一的な「正社員志向」の支援から脱却し、クライアント一人ひとりの「自分らしい働き方」を共に探求し、実現を支援する存在へと進化することが求められます。
個人の価値観を尊重し、柔軟な発想でサポートすることで、私たちはより多くの人々が充実した職業生活を送るための力になることができるでしょう。
弊法人は、「働き方に悩む人を、ゼロに。」というモットーでキャリアコンサルティングにあたってきました。
「働き方の多様化」に伴い、今まさにこの理念が必要とされる社会になっていると思います。
皆さんは、この変化の中で、ご自身のキャリアや働き方について、どんなことを考えますか?

この記事へのコメントはありません。